コラムColumn
健康管理のヒントになることを、各分野の専門家の方々にわかりやすく説明いただくコーナーです。
みなさまの健康管理にお役立ていただければと思います。
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2022.12.01
Vol.1
「心臓の拍動(心拍)の話」
立川メデイカルセンター 研究開発部、新潟大学名誉教授、不整脈心電学会名誉会員・前理事長
相澤 義房 先生
人の体の細胞は、絶え間なく血液を受けることによって生き続けます。この血液の供給は、心臓の収縮により動脈を介して体全体へ送り出されることによります。心臓の収縮は一拍毎に心臓の拍動、すなわち心拍として捉えることができます。心臓が収縮することで動脈へ血液が送られ、その結果動脈の血圧が高まり脈として触れる(脈拍)ことができます。心拍と脈拍は1:1の関係にあり、心拍数は脈拍数によっても知ることができます。
心臓の収縮は殆ど感じることはありません。しかし運動した時や精神的に緊張した時に、ドキドキとして感じることは誰でも経験していると思います。
運動時に心拍数(=脈拍数)が増えるのは、運動により筋肉がより多くの血液(酸素)を必要とする様になるため、心拍数を上げて心臓の働きを増して筋肉への血液の供給を増やす仕組みが体にあるからです。試験前など精神的に緊張する状態では自律神経のうち交感神経の働きが高まり、心臓が強く打つと共に心拍も増加し、心臓のドキドキが感じられる様になります。一方夜間眠る時などは自律神経のうち交感神経は休息に入り、迷走神経の働きが高まります。すると心拍はゆっくりとなります。夜間に心拍数が低下しても、これは脈をとったりしない限り感じることは無いのが普通です。この様に心臓は身体的・精神的な必要に応じ早く強く打ったり、その逆にゆっくり弱く打ったりしますが、これは無意識に行われます。
身体的活動や自律神経活動に無関係に心拍の変化をきたすことがありこれが不整脈です。多くの不整脈は自覚されることがないため、何年かを経て検診などでやっと分かる(診断される)場合があります。心拍は心臓の働きを表しますから、多すぎる心拍も逆に少なすぎる心拍も心臓から全身への血液を送り出しを妨げ、極端な場合は心臓から血液が出されない心停止の状態をきたす危険な不整脈もあります。この様に、心拍は不整脈の有無や、これが無くとも身体活動や精神・神経活動を反映しますので、心拍を記録し分析することは有用と考えられています。
私たちは通常は日中仕事をして夜間は眠ります。これに伴い運動量や仕事やストレスが多い昼間の心拍数は増え、この時交感神経の働きも増します。一方、夜眠る時は安静状態になるため運動量は最小となり、交感神経も休むため心拍は低くなります。迷走神経の働きは交感神経とはほぼ反対に働きますので、日中は低下、夜間は亢進を示します。心拍は一日の中で活動に応じてほぼ決まった変化しており、一定の心拍の変動パターンを示し、これを心拍の日内変動と呼びます。心拍以外に、血圧やホルモンのレベルなどにも日内変動みられます。病気になると、身体的肉体的な活動も変化し、これは自律神経にも影響することから、心拍の日内変動にも変化をきたします。
心拍を一日中記録して日内変動を知ることができますが、健康な場合は心拍の日内変動も正常パターンで、病気など異常な状態になると日内変動が乱れます。いくつかの病気の発生が心拍の日内変動に関係して起きることも知られています。例えば心筋梗塞や脳卒中は、明け方に多く発症しますが、このとき自律神経のうち交感神経活動が高まりつつあるタイミングであることが知られています。交感神経活動の高まりは、心拍を増したり血圧を上げたりすることからもこれらの病気の発症のきっかけとなることは分かると思います。また心臓の働きが弱って心不全になると、心拍の日内変動は乱され、心筋梗塞や脳卒中の発症パターンにも変化がきたします。心電図を24時間記録して心拍の日内変動をみることで、病気の手がかりが得られます。
心拍から多くの不整脈の診断ができます。診断できる不整脈は、心拍が早すぎるものと遅すぎるもの、時々抜けるものでこれは房室ブロックと期外収縮により抜けて見えるものなどがあります。この他重要な不整脈に心房細動があります。心房細動は心臓の上部の部屋である心房が全く無秩序に毎分300-500拍で興奮し、この一部が心室に不規則に伝わってくるものです。脈の乱れが特徴ですが多くは症状を伴わずに何年も経過し、脳梗塞を起こして初めて診断されることがあります。普段心房細動が見られなくとも、短時間で出没を繰り返すものがあり脳梗塞の原因となります。脳梗塞の予防のため、早い時期に心房細動を診断することは大きな意味があります。
心電図を記録して心拍を調べることで、体の変化や自律神経の変化を知ることができることから、様々な応用が試みられています。例えば運転中の心拍の変化から、居眠りに陥る危険を心拍から察知し警告を発生する試みもあります。
この様に心拍を記録することは、病気の診断以外に日常生活での体調の変化などを判断するなど、広い範囲で利用されています。